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【掌編】プロポーズに耳をすませば

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※画像はWikipediaより引用

https://ja.wikipedia.org/wiki/耳をすませば

 

  

耳をすませばをご存じだろうか。

 

1995年に公開された、柊あおい原作のスタジオジブリ映画作品。

月島雫と天沢聖司の恋愛模様を描いた青春恋愛映画であり、数あるジブリ作品の中でも、今なお不動の人気を誇る作品の一つである。

ただし、この「耳をすませば」だが、ある一部の人種に関しては、ただ見るだけで心臓をキリで刺すような強烈な激痛に襲われることでもお馴染みである。

金曜ロードショーでこれが放映されたが最後、日本中至る所から悲鳴が上がる。

「やめろ!お前らみたいなリア充のキラキラした青春を見せるんじゃない!」

という悲鳴が。

 

かくいう俺もそのうちの一人だ。

じめじめした日陰のような青春時代を送ってきた人間たちにとって、耳すまは凶器以外の何物でもない。

今までの人生も、そしておそらくこれから先の人生も、なるべく避けて通るものだ。

そう思っていた。

昨日の金曜ロードショーをうっかり見てしまうまでは。

 

俺は今、坂道を自転車で駆け上がっている。

時間は午前五時。今日は仕事は休みだから、別に早起きする必要なんてなかったし、普段は絶対にこんな時間に起きたりしない。

なのに俺は今、まだ日の昇らない薄暗い街の坂道を、ゼエゼエ言いながら自転車で駆け上っている。

 

――ちょっと最近太って来たし、ただ運動しようと思っただけだ。

 

別に、坂の上から夜明けの街並みを見たくなったとか、そんな衝動に駆られて全然寝付けなくなって家を飛び出してきたとか、そんなんじゃない。

うん、違う。断じて違う。

別に、雫と聖司くんが抱き合ったあのシーンを見て、彼女できたことなんて一度もないのに思わず号泣して、感化されちゃったとかそんなわけではない。決してない。

 

 

坂は思った以上にきつかった。

ロードバイクでもなんでもない、ただのママチャリで登っていく坂道は異様に骨が折れて、坂の頂上にたどり着くころには全身汗でびしょびしょになっていた。

休憩所のような駐車場に入って、ママチャリをとめて自販機で水を買った。時計を確認すると、日の出の時間はとっくに過ぎていた。

木が邪魔であまり街の景色は見えなかったが、朝焼けの街並みは黄金色に輝いていた。

 

今までずっと避けてきた耳すまを初めて見て、感動のあまり勢いでこんなところまで来てしまったが、よくよく思い出したら俺はもう中学生ではないし、プロポーズする彼女もいなかった。それどころか童貞記録を無駄に更新中だ。

そうやって現実に戻ると突然、猛烈な虚無感が胸に押し寄せてきたが、理性ある大人の俺が、

「でもまあ良いんだ」

などと、独り言を呟きながらいきなりカッコつけだしてきた。

「確かに俺は今まで一度も恋人ができたことはないし、それは今も現在進行形で続いてるけど、耳すまのおかげでこんないい景色が見れたんだから、今日はこれで良しとしようじゃないか」

大人の俺はさらに続ける。

「いずれ奇跡的に誰かと出会って…そうだなたとえば、長澤まさみと出会って、さらに奇跡的に長澤まさみと結婚するときは、今日のようにまた汗だくになりながら坂を上ろう。汗だくで水を飲みながら、朝焼けの街並みを下に、長澤まさみにプロポーズしようじゃないか」

大人の俺は泣きながら満面の笑みを浮かべた。

「いつになるか分からないけど、いずれ必ずやろう」

俺は、この先絶対に埋まる事のない予定を胸にして、再び坂道を下って行った。

帰り道泣いていたのは別に、悲しかったからとか、虚しかったからとか、そんなことが原因ではない。

ただ俺は、長澤まさみとあまりにも付き合いた過ぎて、泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この作品はフィクションです。実在の作品、人物、団体などとは一切関係ありません。 

 

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