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【掌編】僕と父のバック・トゥ・ザ・フューチャー

 

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※画像はWikipediaより引用

https://ja.wikipedia.org/wiki/バック・トゥ・ザ・フューチャー

  

 

バック・トゥ・ザ・フューチャーを知っているだろうか。

 

1985年に公開された、大ヒット映画。製作総指揮はあの、泣く子も黙るスティーブン・スピルバーグ。

脚本、演出、キャスト、音楽。何から何まで完璧な作品と呼ばれ、今もなおファンが絶えないという怪作。

 

今僕は、それと同じ状況にいる。

どういうことか分からない人のために説明すると、僕は今、「僕の両親がまだ高校生だった頃の時代」に来ている。

こんなことを言ったところで、誰も信じてくれないだろうが、そんなもの僕自身が一番信じたくない。お前よりも僕の方が信じてないからな。

 

そもそも僕の知り合いには、タイムマシンを研究しているイカレた科学者はいない。

あと、彼女とデートするために車が必要なわけでもない。というかそもそも彼女はいない。

 

タイムマシンもないのに、なぜ自分が25、6年も前の時代へ戻ってしまったのかはさっぱり分からなかったが、しかし、こうなったのにもきっと何か理由があるに違いないと思った僕は、この時代に生きているまだ高校生だった頃の両親を探すことにした。

 

しかし僕はこのときふと、あることに気がついた。

 

「あれ、ウチの両親って、親父がお袋よりも12歳年上じゃなかったっけ?」

 

つまり、この時代で母が僕と同じ17歳であれば、父は29歳ということになる。

 

なるほど。

犯罪だ。

 

若干、父と母の年齢差に恐怖を抱きながら、僕はまず母を探した。

母は案外簡単に見つかった。僕が今も通っている高校に、母が通っていたからだ。

母は普通の女子高生だった。部活をし、友だちもいてそれなりに楽しそうだが、頭はあまり良さそうじゃない。

実際、僕の母は頭があまり良くない。というか悪い。「女将」という漢字をいまだに「めしょう」と読み続けているくらいには悪い。

 

続いて、父を探すことにした。

だが、そもそも僕はこの頃の父が何をしていたのかを知らない。

29歳という年齢を考えれば、恐らくどこかしらで社会人として働いているはずだ。

しかしどこで働いているのだろうか?父が結婚前にどこに勤めていたかなど、一度も聞いたことがない。

それどころか、父と母はそもそもどうやって出会ったのだろう?

「馴れ初めの話なんて全く聞いたことないぞ」

興味がないから聞かなかった。と言う方が正解なのだが、このとき僕はほんの少しでも両親の出会いについて興味をもっておけばと後悔した。

 

途方に暮れ、どうしたものかと実家近くをうろついてると、公園の隅で、スウェット上下でギターをかき鳴らしているやばい男を見つけた。

ああこいつはやばいヤツだと思ったと同時に、僕は直感した。

「父だ」

29歳の父は、上下ユニクロのスウェットを着て、ブランコに座りながらクラシックギターをかき鳴らしていた。

町で見かけたら絶対に近寄らないタイプベスト3に堂々と入る目の前の男が、まさか自分の父親なわけがないと思い、僕はその男をもう一度マジマジと見た。もう一度というか、何度か見直した。五度見くらいした。

しかし、へたくそな歌でギターをかき鳴らすその男は、あり得ないくらい僕の父に酷似していた。

てっきり年を取ってるから老け顔なんだと思っていたが、もともと老け顔だったんだコイツ。など、どうでもいいことも考えた。

 

「…こんにちは」

意を決して、僕は若き父に話しかけた。

すると父は、ギターをかき鳴らしていた手を止めて、こちらに向かって愛想よく「やあ」と返してきた。

「すいませんが、あの、いつもここで弾き語りをしているんですか?」

「弾き語りじゃなくて、これは社会奉仕なんだよ、少年」

何言ってんだこいつ。

「すいません、意味が分からないんですが」

「つまりこれが俺の仕事だよ、少年。こうやってギターをかき鳴らしながら歌を歌うことで、この世に平和をもたらしている。音楽はこの世に平和を与えるからね。俺はそういう仕事をしているのさ」

そう言うと若き父はニヤリと笑って見せた。

「なに言ってんだお前」

「ん?どうした少年?」

「あ、いえ。言っている意味がわからなかったんで、つい口が滑ってしまって」

「ふふ、若気の至りだね、少年。若さは良い。だがそれだけではダメだよ少年。若いうちにはいろんな可能性を考え、行動しなければならないんだよ」

明らかに何の可能性も考えず、何もしていないヤツに言われてしまった。

 

気づいたら僕は、父のギターを奪い取っていた。

そして、奪い取ったそれで父の顔面をぶん殴っていた。

 

父はブランコの下にうずくまり、めちゃくちゃ泣いていた。だが、それ以上に僕は号泣していた。

親のこんな過去なんて見たくなかった。

 

そのあとの記憶はあまりない。

ただ、気がついたら僕はもとの時代へ戻ってきていた。

 

起きて食卓へ行くと、いつも通りに頭の悪い母が頭の悪そうな朝食を作ってくれていた。「これ、なに?」と訊くと、「塩味噌汁」と母は答えた。いわく、具がなかったからとりあえず塩を入れてみたらしい。なんだそれ。そんなの入れるくらいなら味噌汁なんて作るな。

「母さんはどうして、父さんと結婚したの?」

僕が尋ねると、母は少し驚いた様子で僕を見た。そりゃそうだろう。そんなの今まで一度だって聞いたことはなかったんだから。

「そうね」と、母は少し照れたように笑った。

「母さんね、高校生のときに怪我で入院したことがあったの。そのときに父さんと出会ったのよ。父さんは大した怪我じゃなかったんだけど、怪我の影響で記憶が飛んでてね。記憶がなくて自分でも不安なはずなのに、私にとてもやさしく接してくれて、それから紆余曲折あって、付き合う事になったのよ」

怪我、ね。

「父さん、結局今でも記憶は戻ってないみたいだけど、母さんと付き合い出してから勉強して大学に通いだして、今では立派にお医者さんなんだから、偉いわよね」

そうか、と、僕は塩味噌汁をすすりながら思った。

僕が過去へと戻ったのは、あそこで父をぶん殴る為だったのか。

そのおかげで父は就職し、二人は結婚できたわけだと。

すべて腑に落ちた。

だがそれと同時に、「だとしたら」とも思った。

 

「あともう一発くらい殴っとけば良かった」

 

 

 

 

 

 

 

※この作品はフィクションです。実在の作品、人物、団体などとは一切関係ありません。